認知症の方への口腔ケア
認知症の方のご家族や施設スタッフの皆さんは、日常生活のさまざまな場面で介護や介助をされていると思います。認知症が進行すると自分で口腔ケアをするのが難しくなってしまいます。そこで口腔ケアの介助をする機会が多くなるのですが、このときに拒否をされてご苦労される方もいらっしゃるでしょう。
今回は、訪問歯科などで実践している認知症の方への口腔ケアのやり方について、参考にしていただけるポイントを説明したいと思います。
認知症の方にみられる口腔の状態は?
認知症が進行すると歯みがきの自立度が低下し、さらに入れ歯の管理も難しくなる傾向があります。そのため、認知症が進行すると多くの方は口腔ケアの介助が必要になります。
また、8020運動の成果もあって歯が残っている方も多く、総入れ歯というよりも部分入れ歯やインプラントがご自身の歯と混在しているケースが多く、お口のなかの衛生状態が悪化しやすい状態にある方が多数いらっしゃいます。ところが、衛生状態が悪化して口内炎やむし歯ができたとしてもその痛みなどの症状を伝えられないことが多いのも認知症の方の特徴です。
さらに認知症の進行にともなって口腔ケア介助に対する拒否が強くなりがちで、認知症の方の口腔ケアは難易度の高いものになりがちなのです。
どうして拒否するの?
なぜ認知症の方は口腔ケアを拒否するのでしょうか? いくつかの理由が考えられます。
もっとも大きな割合を占めると思われるのが、「何をされるかわからない不安感や恐怖感による拒否」です。認知症の方は、周辺の状況や相手の説明などをうまく理解できないこともあるため、常に不安や恐怖を抱えているのです。
また、「口腔ケアの必要性を理解できないための拒否」というものもあります。なぜ自分に口腔ケアが必要なのか、それを行わないとどうなるのかが理解できないのです。
なかには、「歯ブラシなどのケア用品が何に使われるのか理解できないための拒否」というケースもあります。「何かわからないものを口に入れようとしている」と感じてしまうのです。
口腔ケアのポイントは?
認知症の方が口腔ケアを怖がっている様子のときは、その原因を探りましょう。
まずはご本人の話を聞き、その様子をしっかりと観察します。
口腔ケア用品に対して不安を感じているようなら、それを実際に使って見せながら丁寧に説明します。口腔ケアの必要性についても、「お口のなかがキレイになってすっきりして気持ちがいいですよ」と具体的に説明します。
認知症の方への説明は、一度にいくつもしてしまうと理解してもらえません、1つのアクションをするために1つの説明というように、順を追って丁寧に説明します。説明を理解するのにも時間がかかりますから、相手のペースに合わせることも大切です。
1つ1つのケアが終了したら、その都度「お疲れ様」と声をかけてあげましょう。口腔ケアすべてが終了したときは、「お口がスッキリしましたね?」と声をかけ、「協力していただき、ありがとうございました」と感謝を伝えることも大切です。
こうして「口腔ケアは怖くない。お口がスッキリする」という体験が重なれば口腔ケアへの取り組みも積極的になってくれると思います。